大会テーマの趣旨

統一テーマ  「朝鮮植民地化過程の再検討―日露戦争から「併合」へ―」

大会テーマのねらい

 日露戦争終結から百年を迎え、歴史学界では、日露戦争に対する研究史の整理や新しい視角からの評価などが進行している。「百年目」という区切り自体には単なるきりのよい数字という以上の実質的意味はないかもしれないが、日露戦争研究の深化という状況に対して朝鮮史研究の立場からどのような主体的発信が可能なのか、という問題はやはり避けて通れないだろう。「朝鮮植民地化過程の再検討―日露戦争から「併合」へ―」という今大会の統一テーマを設定するにあたって、我々の念頭にあったのは何よりもそのような問題意識だった。

  したがって、大会テーマの扱う「朝鮮植民地化過程」は、日露戦争期から「併合」に至る五年間ほどの短い期間ないしその前後に設定されている。もちろんこれは、日露戦争以前の日本の対朝鮮政策が「植民地化過程」ではなかったと主張するものではない。にもかかわらず、この短い時期に議論を絞ろうと考えたのは、この時期には固有の歴史学的論点が豊かに含まれていると考えたからに他ならない。この時期、朝鮮問題を主要な原因の一つとして日露戦争が起こり、以後、飛躍的に強化された日本の支配のもと大韓帝国が保護国となり、その過程は最終的に韓国「併合」に帰結した。この朝鮮植民地化過程の時期に対しては、近年あらためて関心が寄せられるとともに、その研究視角においても新たな潮流が生まれつつある。

 たとえば、従来、財政・土地制度・地方制度・警察といった個別部門史として研究が蓄積されてきた朝鮮植民地化過程研究は、周知の「併合」合法論―非合法論論争をはじめ、伊藤博文統監や高宗皇帝の政治外交路線の研究など、この時期の時代像全体をとらえ直す動きへと向かっていく趨勢が見てとれる。また、こうした全体史への指向は、当時の国際法を参照したり統監政治の制約要因としての列強の領事裁判権に着目したりすることによって、「一国史観」あるいは「日朝二国関係」という視角を相対化する動きにもつながっているように思われる。

  さらに、近年、活発に新しい理論枠組みが提唱されている植民地期研究の影響も見落とすことはできない。ナショナリズムの相対化やいわゆる「植民地近代(colonial modernity)」の議論、あるいはそれらと関わる「親日派」に対する再解釈などの動きは、朝鮮植民地化過程を研究する視角にも深く関わってきている。

  もとより、今大会のみでこのような研究潮流や新たな論点すべてを再検討することはできないだろうが、今回の大会では、こうした朝鮮植民地化の時期の新しい研究潮流を作りだしたり批判的に発展させようとしてきたりしてきた四人の研究者に報告を依頼した。各報告者が、同じ時期を土俵としつつ、政治史・社会史・経済史など多様な切り口によってこの時代の史実を切りとってみせてくれることで、朝鮮植民地化過程に潜在している問題群の多様さと深さがあらためて認識できるのではないかと期待している。

                          (関西部会大会準備担当幹事)