第45回大会 各パネルの詳細

パネル1 朝鮮古蹟調査事業研究の新展開

趣旨

 朝鮮総督府によっておこなわれた古蹟の調査・修理・保護事業に対する研究は、主に歴史学・考古学・建築史学などにおける学史研究として進められ、その研究材料は、刊行された調査報告書や学術論文などに限られていた。しかし近年、当時の官報、雑誌の彙報、新聞記事、調査者の残したフィールドノート、ガラス乾板写真などの検討を通して、研究は新たな展開をみせつつある。本パネルでは、文献史学・考古学・建築史学を主専攻としながら、朝鮮古蹟調査に関する研究も進めてきた研究者による最近の研究成果の報告をもとに、それらが朝鮮近現代史研究の中でどのように位置づけられるのかを議論する中で、今後の研究の進展方向や課題について考えたい。

報告(発表者五十音順)

「植民地期朝鮮における古蹟と地域社会」 太田秀春氏
「朝鮮総督府建造物修理事業史研究のアクチュアリティー」 清水重敦氏
「朝鮮古蹟保護政策の展開過程」 広瀬繁明氏
「朝鮮古蹟調査における写真の役割」 吉井秀夫氏

 

パネル2 併合前夜の大韓帝国―その内政と外交

趣旨

 来る二〇一〇年は韓国「併合」から一〇〇年にあたる。それゆえ今後の数年はこの日韓関係史上の重大事件に関する研究なり、あるいは学会におけるテーマ設定が数多くなされることが予想される。
 さて、日露戦争中に日本国政府は大韓帝国を「保護国」とし、統監府を設置し、そして統監に伊藤博文を補任したことはあまりにも有名な出来事である。ただし、韓国統監府が設置されていた五年足らずの時期は、「併合」の序曲としてのみ語られる憾みがあり、また併合を断行する日本と、抵抗する朝鮮民族、といった二項対立的に描かれがちであった。
 とは言っても、そうした史実なり評価を否定することが本パネルの目的ではない。当該期は甲午・光武改革以来、やや形式的ではあれ内閣と官僚制が存立する中、宮中との葛藤、統監府との折衝、列強諸国の利権整理など、従来の研究ではともすれば等閑視されやすかった諸問題が複雑に絡み合っている。にもかかわらず、確定すべき史実の掘り起こし作業は依然として進捗していない部分が少なくない。
 本パネルにおいては大韓帝国政府と韓国統監府を敢えて対立するだけの構図では捉えず、まずは近年までの研究動向を踏まえつつ、かつ大韓帝国期の国内情勢や政治動向、あるいは外交に至るまで、その研究上の諸問題を設定することにより、近代朝鮮史上における<保護>期の位相を改めて実証的に検討することを目指すものである。

報告

「大韓帝国史研究の課題と展望」   月脚達彦氏・林雄介氏
「大韓帝国の内政・外交と韓国皇帝」 原田 環氏
「官僚人事に見る大韓帝国と韓国統監府」永島広紀氏

 

パネル3 フィールドワークと歴史研究―人類学と歴史学の対話から見えてくるもの

趣旨

 近年、フィールドワークを主たる方法論とし、共時的、静態的世界を対象としてきた人類学者が、歴史的時空間を、また、文献史学にもとづき、法制度などを研究してきた歴史学者が、日常生活の風景や人々の記憶、語り、移動などに注目し、両分野の関心は一見交差しつつある。しかし、両者が扱う資料や方法、その観点について、あるいは互いの成果がいかに活用し得るかということは、これまであまり論じられることはなかった。本パネルでは、特に「フィールドワーク」という作業と「歴史」との関係を各報告者の立場から論じ、上記の問題をコメンテーターやフロアーを交え議論したい。
 本田は、南原の卿吏家系出身者たちの歴史的活動を事例に、人類学者の主たる関心のひとつである共時的「フィールドの現実」が、(人々の語りや記憶あるいは忘却を含めた)「歴史」とどのような関係を切り結ぶのかを考察する。また、現代の地方社会を理解する上で、「歴史」的作業がもたらす意味を論じる。鈴木は、植民地期の在朝日本人が残した自叙伝をもとに、彼が関わった地域をフィールドワークし、当時の日本人と朝鮮人の関係を考察する。いわゆる「親日派」についても考えてみる。本田とは逆にフィールドからみえる過去を考察する。また、その際の資料収集の仕方や問題点にも言及する。本間は、報告者のなかで、唯一の歴史学研究者で、近年植民地期における普通学校の日本人教師やその関係者に対する多声的インタビューを行っている。文献資料とインタビューから見えてきた問題点について報告する。

報告

「フィールドの現実と歴史―韓国南原でのフィールドワークから」 本田 洋氏
「自叙伝とフィールドの間―安眠島麻生商店をめぐる人々」  鈴木文子氏
「元在朝日本人教員への聞き取り調査から見えてきたもの―教育政策と現場との間」 本間千景氏
コメンテーター 木村健二氏

 

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