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朝鮮学校の「高校無償化」除外に反対する声明

 日本政府は、本年4月1日から施行されたいわゆる「高校無償化」の実施にあたって、朝鮮学校を就学支援金の支給対象とするかどうか留保し、夏ごろまでにその可否を判断するとしました。わたしたち朝鮮史研究会幹事会は、朝鮮史研究者の立場から、かつて朝鮮学校等の外国人学校の大学入学資格除外案に反対しましたが(「大学受験資格におけるアジア系民族学校差別と排除の撤回を求める声明」2003年3月25日)、このたびの「高校無償化」における朝鮮学校除外の動きにも反対の意を表明します。

 今年2月、朝鮮民主主義人民共和国政府が関与したいわゆる「拉致問題」を理由に、中井洽拉致問題担当相が朝鮮学校への就学支援措置の適用除外を主張していたことが公になり、それをきっかけとしてこの問題が政治問題として急浮上しました。制定された法令では、各種学校たる外国人学校については、本国において高校相当であることを確認できるもの、国際的な民間認定機関が認定したものについては制度の適用対象とされました。いずれの基準にも該当しない朝鮮学校については、最終的に文部科学大臣の判断に委ねられます。結論がどうなるにせよ、朝鮮学校のみが例外扱いされている点にわたしたちは注目します。このような外国人学校の区分は、外国人学校卒業生の大学入学資格を認定する基準が援用されたものです。同基準が定められた2003年においても、やはり「拉致問題」との関係で、結果的に朝鮮学校のみが例外扱いとなり、各大学の判断に委ねられるような基準が設定されました。今回、この判断基準が援用されたことに対し、わたしたちは抗議します。

 わたしたちは、今回の法令が歴史の積み重ねの上にあると考えます。朝鮮学校は、日本の敗戦により植民地支配から解放された在日朝鮮人が、教育機会を奪われてきた朝鮮語・朝鮮史などを教授しようと設立した民族教育機関を起源としています。しかし、これを危険視した連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)と日本政府は学校の閉鎖を命令し、それに反対する1948年の阪神教育闘争を非常事態宣言まで発布して弾圧したのち、翌49年にはついに閉鎖・改組を強行しました。そこから自主学校などのかたちで徐々に再建されていったものが、現在の朝鮮学校です。その後も、日本政府は1965年の日韓条約を契機に、朝鮮学校を各種学校として認めるべきでないとする文部次官通達を発しました。にもかかわらず、各都道府県が朝鮮学校を各種学校として認可してきたことで、この通達は死文化しました。1976年に専修学校制度が設けられたときも、外国人学校は除外されました。そして2002年の日朝首脳会談以降、大学入学資格、税制優遇措置、さらに今回の「高校無償化」において、朝鮮学校は差別的な扱いを受けました。しかし既にほぼ全ての大学が朝鮮学校の大学入学資格を認めてきた、したがって実質的に「高等学校の課程に類する課程」であると認定してきたのが実情であり、今回の法令はそうした歴史の趨勢に反するものです。

 中等・高等教育の無償化は、日本国も批准している国際人権規約および子どもの権利条約でうたわれており、今回の「高校無償化」はその実現を目指したものと理解できます。しかし、両条約に民族教育の権利の保障が書きこまれていることも、忘れてはなりません。今年3月の国連・人種差別撤廃委員会では、日本政府に対し朝鮮学校除外を懸念するとの勧告がありました。いま日本政府は、民族教育の保障に向けて新たな一歩を踏み出すのか、逆に新たな排除を生み出すのか、その岐路に立たされているのです。

 「拉致問題」が浮上して以降、日本国内では北朝鮮敵視の風潮が強まり、その政治利用とあいまって、悪質な差別扇動が力を増しています。昨年12月に京都で起きた朝鮮初級学校への集団的な嫌がらせも記憶に新しいところです。しかしわたしたちは同時に、日本政府が幾度も朝鮮学校に警察権力を送り込んできた歴史を想起します。その最新のできごとは2007年のことで、微罪関与の容疑で、滋賀朝鮮学園に百名をこえる警察官の捜査が白昼堂々入りました。これが「北朝鮮への圧力」の一環であったことは、当時の警察庁長官の発言からも明白でした。つまり、個別政策のみならず、日本政府がこのような姿勢からの根本的な転換を示すか否かが本質的な問題なのです。

 以上の点から、わたしたちは、「高校無償化」制度の実施によって、朝鮮学校の新たな排除を生み出さないことを、日本政府にたいして強く要望します。

2010年7月29日

朝鮮史研究会 幹事会